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7月の新書オーバービュー

 7月は取材・研究や実績の厚みを感じ、読み応えのある新書が多かった。

ルポ ニッポン絶望工場
 訪日「留学生」「実習生」の大半が、日本人の嫌う単純労働に従事するために来日している。工場のライン工、農水産加工、介護などが多い。彼らは納得してきたのではない。「日本で学生をやれば月20万稼げる」という甘言に騙され、100万円以上の借金をして来日した。しかし、朝から晩まで働いて、20万円から生活費を出し、借金を返すと、数年のビザ年限で貯金など到底できず食い詰めてしまう。実習生・留学生の多くは日本に嫌な思い出のみを残して帰国することになる。リアル蟹工船だ。

 受け入れる日本も、彼ら実習生・留学生なしには価格競争力を維持できない。水産加工や食品製造・物流などは、彼ら外国人労働者がいなければ商売、あるいは自治体そのものが成り立たないという。事業者も商売であり仕方ない面もある。腹立たしいのは、外国人労働者のしか考えていない日本人だ。多くの日本語学校や、日本経済大などは偽装留学生受け入れを飯の種にしていることだ。実習生受け入れを管轄する日本政府の外郭団体は、労働者の給与ピンハネだけで、何も監理・指導せず、人身売買に近い実習生ブローカーを放置している。問題が何年も指摘されているのに何もしない。単純労働させるという本音を「国際貢献」「技術移転」と、誰もが嘘とわかる建前で飾ったシステムなので、少しでも手を付けると制度が成り立たなくなるからだ。

 こうして受け入れた労働者の犠牲で、日本は人手不足にも関わらず商品やサービスの低価格を維持した。だが、その為替レートが落ち、世界の所得上昇率から見て相対的に稼げなくなったため、「日本に来る外国人労働者の質は落ちる」と著者は指摘する。その結果、ベトナム人の犯罪や失踪者・不法滞在が急増し、熊谷連続殺人のような実習生による凶行は今後ますます起きるだろう。そもそも看護師のような優秀な外国人受け入れにも失敗しており、「優秀な外国人はもちろん、単純労働者からも日本は見捨てられるのではないか」という読後感を抱いた。多方面にわたる取材をこなし、外国人一辺倒に立たず、「日本のためにもならない」というメッセージを盛り込んでいる本書のメッセージは、日本社会のコンセンサスを得やすいだろう。

医療探偵「総合診療医」 原因不明の症状を読み解く
 18年度から専門医として新設される「総合診療科」医師の診断を、紙上で再現している。「頭が痛い」「腹が痛い」だけで、市中の医師ではさっぱり見当がつかないことがある。だが、できる内科医師は問診で8割の診断がつく。むしろ、きちんと診断して病気を絞り込まずに検査すると、くも膜下出血や虫垂炎のような、放置すれば確実に死ぬのに見逃す重篤な病気を見つけられないという。

 検査や投薬についても、「必要最小限に」と主張する。日本はCTなど、X線検査の頻度が主要国の3倍と、突出して多く、発がん要因の3%も医療被曝だという(p121)。4剤の薬の併用も、高齢者では転倒リスクが飛躍的に上がるため危険だと著者は警告している。

 本書に共感したのは、最後に著者が自らの誤診を語っているところ。まれなケースを見落とし最悪の結果を招いた。重大な仕事のミスは思い出したくもないほどつらい。まして命にかかわることでは……と思う。誤診もそうだがミスは必ず起こる。重い十字架だ。それも経験として「後輩に同じ轍を踏ませない」という著者の決意に誠実さを感じた。

大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争
 大本営発表は嘘っぽい公式発表の比喩にされることが多い。本書はそれがどれほどの嘘か、敵艦への戦果発表の合算と実際の戦果を、全847回の発表から手拾いで集計・比較した労作。空母で7倍、戦艦で発表と実数10倍の差があるとのこと。開戦当初こそ正直な戦果を連日のように発表したが、戦況が悪くなる1942年後半からがたっと減る。ミッドウェーで嘘をついて以降、過去の嘘の帳尻を合わせるためにさらなる嘘を美辞麗句の作文で飾るはめになった。「不祥事の典型やんけ」と思うわけだが、民間企業はどこかで政府やメディア、ウォッチャーに暴かれる一方で、戦時で軍の発表は誰も止められない。特攻は積極的に公表する一方、硫黄島や沖縄の全滅は「全員総攻撃を敢行」、東京空襲、広島原爆投下は「被害は目下調査中」と戦意を失う被害はごまかしていた。

 陸海軍、その軍官衙内での勢力争いも嘘発表に拍車をかけた。報道部の地位は低くて独自調査できないため、雑な現地の戦況報告を鵜呑みにしていた。さらには、上層部から文面に注文がつき、その文面に陸海軍でもめて……と。発表文は正しいかどうかより、軍部内で受け入れられるかどうかであり、自ずから戦果の誇張に向いていく。

 メディアもある種共犯関係だったことを著者は指摘している。報道部幹部だった陸軍の谷萩那華雄、海軍の平出英雄は、ともに明るい性格で、新聞記者と信頼関係を作っている。高圧的な印象のある報道部だが、彼らは新聞社幹部に連日接待を受けていた。言論統制を受けていたように見られている新聞だが、「読まれるコンテンツ」だった戦争情報を独占し、新聞紙の統制も行っていた軍部にすがらなければ経営が続かず、進んで統制に協力することになる。戦時中の言論弾圧事件として著名な毎日の「竹槍事件」も、結局のところ海軍派の記者による東条・陸軍批判だった。「嘘の政府発表も、メディアが協力すると止めようがなくなる。報道の独立は重要だ」という指摘は当たり前ながら、説得力のある指摘だ。

情報参謀
 上記「大本営発表」は「政治と報道の一体化、政治による報道の介入」へ警告しているが、現代の政治によるメディア操作は戦時よりはるかに複雑であることを指摘し、政権与党・自民党が09年の下野以降、連日メディアを監視し、戦略を立てていたことを舞台裏の仕掛け人が初めて明かしたのが、本書だ。

今のニュースはテレビが主役だ。著者の会社は、テレビで何が放送されているか、すべて記録し、分類している。ネットの書き込み量もデータベース化している。テレビへの露出量が政党の強さを直結すること、急浮上した話題に即応しなければならないことを実感した自民党幹部から依頼を受け、著者は自民党の情報分析を引き受け、毎日報告を送った。著者の語る報道番組のサイクルが面白い。「朝の情報・報道番組が世論を決める」。当日のニュースはまとまりきっておらず、すべて収斂するのは朝番組なのだ。当時はみのもんた全盛期でもあったため影響力が強く、著者たちも「朝ズバッ」を注視していたようだ。

 下野当時、とにかく自民党の名前が出ない。鳩山政権の大混乱で政治報道が埋め尽くされ、「野党・自民党」がテレビ報道に占める割合は1割以下だった。それが、政治とカネ、普天間移設を国会で突くと、その割合が半分まで占めるようになった。本書を読むと、まっとうな有権者であれば不快に思う「国会質問で揚げ足を取る」「ネチネチ政府をいびる」印象を持たれないよう、質疑で相当注意を払っていること、twitterやyoutubeなど、SNSを積極的に活用して若者受けを狙っていることを感じる。

 自民党と著者のネットポリティクスの完成形が、13年の参院選の専従チームといえる。毎日朝に報道・ネットを分析して候補者に配布したiPadに分析報告を送る。毎日決め台詞も入れ、候補が行う街頭演説の材料にした。「世論の風」は、いつどこに流れるのか、昔はわからなかった。だが、自民党は即日つかみ、さらには自分の流したい方へある程度流せるようになったのだ。戦前の陸海軍も、今の自民党も、権力を握る組織は、それを維持するための自己変革力が途轍もなく長けている、と思う。ネット選挙の専門家として、ライバル政党の寸評も記しているが、無所属だった山本太郎に最も注目し「ネットの使い方がうまく、はちゃめちゃなようで人を巻き込む方法がよく練られていた」というのも興味深い。

 まだ3年前にもかかわらず、完勝したネット選挙の舞台裏をここまで書いているのか、という驚きを持って読んだ。自民党に出した分析資料を30枚以上掲載しており、これらを見ると、「この情報量と分析では他党は勝てない」と思う。それまで座して転がり込んできたような印象のあった自民党の政権奪還も、自助努力も大きいのかなあと見方を改めた。

革新自治体
 自民が圧倒的な支持を受ける現状で、二大政党のライバルであるにも関わらず、中道政党との合併、党名変更、共産党との連携……再建途上で相変わらず迷走しているように見える民進党が参考にするべき本かもしれない。高度成長期、各地で生まれた社共首長の歴史を書いている。だが、陰の主役は日本社会党であり、右派の指導者・江田三郎だ。

 革新市長は50年代から増え始め、最盛期の75年には全国に139あった。革新自治体は公害や福祉など、自民党では解決できない住民問題の解決を期待され、ある程度実現した。著者は革新自治体の意義を評価しつつも、地方での成功を国政奪取につなげられなかった社会党の戦略の迷走を批判している。

 社会党は55年の左右合同後も、深刻な路線対立が続いていた。左派は共産党との連携・社会主義の実現を求め、右派は民社・公明といった中道左派と連携を求めていたものの、77年に民公に太いパイプを持っていた江田が離党したことから、両党と社会党の関係は急速に疎遠になった。一方で、70年代末に経済が低迷したことから、自民党とそれに連携した民公に東京、京都、沖縄など続々と取り返され、北海道や神奈川など自社相乗りも増えた。

 革新自治体では、自民以外の野党が一丸で「福祉の拡充」「公害反対」を掲げた候補を支援するので当選しやすい。候補は野党第一党の社会党から出すことが多いため、同党は自党への支持が増えていると見誤った。だが、革新・中道票は組織政党に流れ、浮動票の多い社会党の国政選得票率は戦後下がり続けた。社会党が政権を取れなかったのは、左派が革新自治体で社会主義の時代と誤信してさらに左旋回し、民公の中道勢力を保守へ逃がしてしまったからではないか。長い目で見て、自民党との二大政党として再生するためには、江田を軸にして中道を取り込んだ「社公民」しかなかったのではないか、と著者は評している。

 民進党にも同じことが当てはまるのではないか。旧社会左派である官公労から、9条改正を主張するタカ派まで抱え党内運営は難しい。だが、共産と組めば左に寄りすぎ、マスである中道票を自民へやってしまう。中道左派で踏ん張らないと社民と同じ末路になる……と改めて考える。

ビル・クリントン - 停滞するアメリカをいかに建て直したか
 大政党でイデオロギーが左右へ寄りすぎると、端っこの人から熱狂的な支持を受ける反面、真ん中の厚い支持層を落とすなあというのは、同じ中公の本書でも感じた。今にして思えば米国の黄金期だった「ヒラリーの夫」の時代の話。ビルは決して「終わった人」ではない。ビルが最も頼った政治的同志・政策助言者がヒラリーだったように、大統領となるヒラリーもビルを大統領OB・夫として頼るだろう。ビルの業績だけでなく、立候補前、アーカンソー知事時代の米国民主党のイデオロギー修正に大きな影響を与えたことも解説されている。

 ケネディの公民権法以降、人種平等やウーマンリブなど人権政策に力を入れた民主党は、リベラル一辺倒のレッテルを張られた。クリントンは、犯罪者に厳罰を与え、自由貿易を提唱する「ニュー・デモクラット」運動の旗手として、中道路線への転換を図った。ブッシュの圧倒的勝利が予想され民主党の大物が忌避した92年大統領選にあえて出馬し、奇跡的な逆転勝利を飾る。

 1期目は外交でユーゴ合意、NAFTA発効目覚ましい成果を上げる一方、内政では同性愛者入隊問題や国民皆保険などのリベラル政策で失敗し、議会共和党の躍進を許したものの、ビル政権は中道路線に戻り、後半では財政再建や経済成長を実現し、パレスチナ返還や普天間返還など外交面でも歴史的な合意も取りまとめた。

 ビルは多くの政治的業績を持つが、自身の任期中はスキャンダル続きであり、好感度は低い。モニカ・ルインスキー事件は、証拠物件の発見以前に「性的関係にない」と証言していたことから窮地に立たされ、偽証罪から逃れるために「性的ではないが、不適切な関係」という苦しい言い逃れをしたことは余りにも有名だ。こうした、ほぼ嘘に近い言い逃れを平然と行う印象は今日、妻・ヒラリーにも影響を与えているのではないかと感じた。アーカンソー知事時代の迂回融資を問われたホワイトウォーター疑惑では、ヒラリーも大陪審に召喚され、側近に自殺者も出た。今の好感度の低さはそこに由来するのだろうか。結局ルインスキー事件も予算成立も、世論が共和党のネチネチ感に悪印象を持ち、クリントンが勝利する。

 他方で、抜群の記憶力と不眠不休で働くタフさ、仲間が寄ってくる人柄、逆境での精神的強さなど、本書ではリーダーとしてのビルが持つ天賦の素質にも触れるほか、嫌われ者の凄腕選挙コンサルを起用し、メディアや世論の支持獲得に腐心していたことも記している。

 大統領時代の業績はやや駆け足ながら、大統領までの前半生は文章が分かりやすいながら、修辞的であり読ませる。ハイライトであるヒラリーへの求婚、第二回大統領選討論会の弁舌はとりわけ、鮮烈に描写されていて、ビルの生涯も知ると同時に、評伝としての読書にも十分応える本だ。余談だが、四半世紀後、妻が出席した第2回討論会と比べ、内容は文字通り雲泥の差であるのだが。


 今月一番面白かったのは「情報参謀」「ビル・クリントン」の2冊。2冊は政治以外、全く違う話題の本だが、世論の支持を獲得するための戦術は奥が深い。世論の漠然とした印象が、国政に意外と大きな影響を与えるという点でも共通している。
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