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国宝消滅




 日本は文化遺産でもっともっと稼げるはずだ。日本文化に関連する消費が縮小スパイラルにはまり込む原因を明快に解説していいる。

 日本の文化財の入場料は破格の安さだ。ロンドン塔やウエストミンスターなど英国の名だたる世界遺産は軒並み3000~4000円する。本書p165の世界の文化財入場料の国際比較を見れば一目瞭然だ。アンコールワット、自由の女神、ピサの斜塔も2000円台。一方、日本の文化財は、日光や高野山などかなり広大な文化財を除けば、おおむね数百円のレンジに収まっている。これでは、施設維持ができない。しわよせは、施設の不適切なメンテナンス、さらには劣化に跳ね返ってくる。適切なサービスを付加すれば、国に文化財保護の予算をもらわなくても、施設維持に十分なコストを賄える。国も文化財を、維持する対象から「投資対象」として金をかけた方が、保護の質も、観光への貢献も結果的に上がる、と力説している。

 前著「デービッド・アトキンソン 新・観光立国論」でも主張はしているが、本書では議論がより緻密になっている。江ノ島水族館は2100円、鎌倉大仏は200円。日本人は価格差をおかしいととらえないが、果たして本質的な価値に10倍の違いがあるのか。大仏も魅力ある施設に整備すれば、2000円取っても全然おかしくない。にもかかわらず、新しいサービス・手間を文化財保護当局は惜しむから、モノだけ置いてあればよし、という展示方針になってしまう。著者が京都御所の茶室でお茶をたてたいと希望した際に、施設管理者から「文化財の中で火を使うことは許されない」と拒否されてしまう。著者側で消防要員・器具を用意するといったにもかかわらずである。欧米の「生かして使ってこそ」という文化財保護・活用の流れに逆行しているのではないか、と母国・英国の学芸員たちに取材した感想を語っている。

 「値上げすると、学生や地域住民の学習の場でなくなる」という懸念もある。これにも著者は「今でも団体料金があるように、修学旅行や市民割引などの価格差は当然あってしかるべきだし、「そもそも京都でスタバのラテを飲み、タクシーで寺社に訪れる修学旅行生を、ラテより安い入場料で入れていいのか、お金が主役のお寺に落ちず、脇役のスタバやタクシーに金が落ちるのはおかしい。拝観料に充てられないのは不条理だ」と疑問も呈している。

 本書がもう一つ強調するのは、和服や漆器など、日本文化を代表する工芸品の需要減は、品質の割に高すぎるからだという仮説を提示している。実に辛辣な指摘だ。伝統工芸の値付けは「今までこのくらいの値段でやっていたから」という理由が多く、具体的な積算根拠がないと語る。どんぶり勘定だ。「金沢箔」について、「中国産が1割上がったので、単価が1割上がる」という直接価格交渉を受けた経験から、「金沢箔のかなりの割合は中国産金箔だ」と明かしている。これは……と感じたのは、巻末の西陣織の事例。和服需要の減少に伴い、それまでの供給数を維持できなくなった。業者は古くからの家族経営が多く、合併統合は進まなかった。どうするかというと、国内の職人をクビにして、海外へ発注する。呉服業の商品回転率は、小売業の商品回転率の6分の1にしかならない。また、原価率はほかの卸売業に比べ、10%以上低い。つまり、高い理由は業者のボッタクリであり、日本の消費者もそれを見抜いているからだという。

 漆器、金箔など、ほかの伝統工芸にも通じる話で、大半の工程を中国やベトナムに発注しながら、日本の伝統工芸品と称して売る。「産地偽装」と著者が憤るのも当然だろう。メードインチャイナの「japan」でいいのか、と。工芸品会社最大手の社長でもある著者は、伝統工芸復活のため、日本国内の職人に発注することを提言している。伝統技術を保持する職人であれば、質も期待できるし、発注が増えれば、商品回転率も上がって値下げも可能になり、需要も増えるはずだ。

 国の文化財政策にも問題がある。伝統工芸の継承のために、国が予算を出して養成コースを設置している。だが、金になるならほっておいても若者は集まる。「若者が入ってこないのは、発注がなく食っていけないと知っているからだ。国が発注を増やせばいい」と。発注しても請負業者の能力を考慮しないために、伝統技術を持たない業者が安値受注し、漆職人が塗るべき漆塗りをペンキ職人が塗るというお粗末なことになる。もちろん、安易な業者への補助金では、何の改善にもならない。


 前著と同じように、日本文化への卓越した知識の上に、統計などのデータを多用し、文化財・伝統工芸とビジネスという異質に見える文化をきっちりとつなげてと議論する文章は新鮮。「ビジネスの視点が足りない。コスト感覚を持つことで、日本文化はむしろ守れる」と明確に言い切る内容に、未来への希望を感じた。これからの文化財・観光を考える上で、本書も外せない本になるだろう。
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