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8月の新書オーバービュー

 8月の新書は珍しく、夏枯れ感なく29冊読了した。戦後70年の節目で読んでおきたい戦争関連書が多かった。

 「忘れられた島々 「南洋群島」の現代史 (平凡社新書)」は、日本統治が良好だったとされる南洋領土でも、原住民が戦時に防空壕作りなど過酷な使役を強いられたことを指摘している。原住民の志願兵、現地での処刑、拉致・逃亡もあったという。沖縄県民も大量に移民していた。
 サイパンでは戦火が近くなり、本土へ避難したものの疎開船の2割が沈没した。それでも残留者よりまだよかった。2万人の残留者のうち半数以上が犠牲になった。引くも残るも地獄である。また、移民を送り込んで委任統治領を「領土化」したにもかかわらず、防衛戦が近づくと、足手まとい扱いし、あるいは見殺しにする。戦前日本の実に身勝手な国家像が浮かび上がる。

 今月は医療関係で、一連の近藤誠のがん理論(「がんは放置」など)へ反駁する医師の本が多かった。レビューした大鐘稔彦の本のほかに、大場大「がんとの賢い闘い方 「近藤誠理論」徹底批判 (新潮新書)」、宇山一郎「日本の手術はなぜ世界一なのか 手術支援ロボットが拓く未来 PHP新書」があった。
 「がんとの賢い闘い方」は「がんは遅かれ早かれ転移する。増殖するのはがんの性質」「胃がんが多い日本は、執刀件数も多いためスキルも高い。生存率は世界トップクラス」とする。そもそも慶大病院の医師に取材すると近藤誠はほとんど診療していなかったといい、診療しなかった間に標準治療が確立されている、と厳しく批判している。
 標準治療は医療レベルの高い国であればどこでも推奨される「最善の治療」だという。逸見政孝の例のように、検診医の技量や部位によっては、早期で見つからないことはある。著者の父親もそうだったが、私の父親も検診でごく初期の胃がんが見つかり、手術で全快したのでよく理解できる。

 「日本の手術……」は手術ロボット「ダビンチ」を日本で最も活用している医師が、その利点を紹介する。手ぶれせず正確に切れる、操作がしやすい、手術部位を拡大して見られる、座ってできる……など利点が多いという。今は保険診療が認められていないため、著者は保険認可を目指している。
 がん手術の手技、指導についても論じている。胃がんは日本より韓国の方がやや手術成績がいい。韓国では全国の75%の胃がんを16のセンター病院で処理している。日本では年100例あると手術件数が多いとされる。ところが韓国のセンター病院では500例が普通で、1000例以上症例をこなすこともある。論文に必要な件数はすぐ揃うし、淘汰されて生き残った数人の外科医だけで執刀するので、ひたすら胃がんだけ手術することになり、うまい人はどんどんうまくなる。日本は消化器外科医ならだれでも胃がんはできるが、巧拙にかなり差がある。日本もセンター化して、うまい医師ががんを手掛け、淘汰された人は難易度の低いヘルニアなどの手術をすれば、医師全体の技術は向上するのでは、と提言していた。

 最近、首都圏の不動産のトレンドを新書でわかりやすく紹介する著者の新著「2020年マンション大崩壊 (文春新書)」の内容は「タワマンは買うな」という感じ。今や都内の空き家は80万件を超える。都心ですら3割が空きマンション。そもそもマンションは「みんなで一つの商品を買う」という共同体意識が必要だ。でも区分所有という特殊な権利のため、「俺はこの家のオーナー、家の外は知らん」という人が多い。管理費・修繕費滞納、合議制のため全会一致じゃないと進まない。
 大規模修繕の費用がなく、ろくな管理がないでは建物は劣化する。建て替えしたくても、分譲40,50年目の住人は老人ばかりで、今更、金や時間のかかることはしたくないというのでそれもできない。現に毎年首都圏で10万戸の新築物件が出ているのに、建て替えはこれまで200棟足らず。住人が死んで櫛の歯のように抜け、建て替えも管理もできない「スラムマンション」が国内いたるところに現れるのではないかと著者はみている。
 ましてタワマンは、設備がかなり割高だ。ただでさえ住人が多いのに、中国人が投資で購入しているケースが多い。トラブルが生じやすく管理修繕費も出さない。合意形成などできるのだろうか。
 全く絶望的な不動産の未来を、著者は提示する一方で、「国や自治体が出資する機構、役割を終えたマンションを全戸買い取り、必要な施設を建てる」という対策も書いている。そんなに大規模施設の需要があるかとも思うが、まずは建て替えや減築などをしやすくすることが優先だろう。戦後の「新築重視」のつけは、将来世代がどういう形であれ払うんだろうなあ……と気が重くなった。見立てが鋭く、かつ生活に極めて大きな影響を予見した、優れた本だと思う。

 はやりの「○○はすごい」系の雑学本ではあるが、「たたかう植物: 仁義なき生存戦略 (ちくま新書)」は、植物の進化を紹介する本としてかなり面白い。雑草というと、踏まれても伸びるたくましさの象徴のように語られる。だが、雑草はほかの植物との土地争いに負けて追い出され、環境の変化が激しい土地でしか生育場所がなくなった「弱い」植物だという。
 毒をもつ植物も多い。食べられない工夫をしている。人はチョコを食べても死なないが、犬猫は食べると死ぬこともある。これは、人が植物を食べる上で、カカオの毒への耐性を持つようになったからだ。植物は葉を食べられないように毒を作るものの、動物も耐性を作り、ともに進化する。昆虫に食べられないように、アリや寄生バチに葉を食べる昆虫に気づいて食べに来てもらうようにサインを出すこともある。「敵の敵は味方」というか。

 今月一番面白かったのは「タモリと戦後ニッポン (講談社現代新書)」。一芸人の来歴を追う本としては、圧倒的に密度が濃く、よく調べている。国民的芸人ながら謎の多い「特殊芸人」ゆえに、面白いというのもあるが、「タモリと戦後」という捉えにくいアイデアで書ききった著者の構想にも感嘆する。「戦犯を救え BC級「横浜裁判」秘録 (新潮新書)」も、「汚辱」とまで言われた捕虜虐待の戦犯を、損得抜きで弁護した横浜の弁護士の気概に胸を打たれる。こちらもいい本だった。
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