うなんね新書レビュー ホーム » スポンサー広告 » 新書 » 7月の新書オーバービュー

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

7月の新書オーバービュー

 例年通りの夏枯れで、読んだ新書は15冊。ただ、読み応えのある濃い本は多かった。Amazon放流できなかったが、どうしても読書メモを長文で残したい3冊のみをピックアップ。

 今月、新潮新書が気を吐いていて、読んだ4冊はどれも面白かった。2冊は放流したものの、もう1冊の「患者さんに伝えたい医師の本心 (新潮新書)」は妻をがんで亡くした東大医学部名誉教授の医療エッセイ。著者は心臓血管外科、特に大動脈瘤が専門とのことだが、専門にとらわれず、実にバランスの取れた見方で、医療事故への対応、医学教育について書いている。
 特にいいのは、冒頭と最後の章だ。東大教授在職中に妻を乳がんで亡くした。最初の発症は初期で、当時広がりつつあった温存術で切ったが、10年後に再発した。東大病院に入院していたが、全身転移がわかり、打つ手がなく在宅で看取ったという。東大教授でも専門なら最高の医療ができるが、専門外では患者の家族でしかない。あの時乳房を全部摘出していれば、と振り返る。患者が自分の手を離れる時も「何かあったら連絡して」と必ず言うようにしているという。
 最終章はエホバの証人患者に対する決意。手術時に輸血拒否の宣誓を執刀医に求めるため、外科医とりわけ著者たち血そのものを扱う血管外科にはたいへん厄介な患者だ。著者は「親が信者でも自分の意志で拒否しない小児患者の手術では、投獄されてでも輸血救命する」と宣言している。よく知られているように輸血拒否は聖書の記述に基づく。著者もクリスチャンで聖書を信じているが、「聖書はすべて正しいのではなく、真理が象徴的に書いている」として、エホバの証人の解釈を否定する。自分の体を出入りする人工心肺は肯定するのに、自己血輸血を否定するのもおかしいと指摘する。なお、著者の説得で翻意した患者はいないとのこと。外科医でクリスチャンだった大鐘稔彦が、エホバの証人の主張を認めて無輸血手術に取り組んでいたのと比べると、主張を否定しながらも手術する著者の姿勢は、興味深い。


 単なる記録・ルポを超え、国策としての満州移民を追った「移民たちの「満州」: 満蒙開拓団の虚と実 (平凡社新書)」は、大恐慌後で農村部の景気が深刻な中、余っている農村青年がソ満国境付近へ屯田兵のように移民し、土地を開拓するという発想だった。だが、戦争が始まり軍需産業が活発になり、若者も兵隊に取られると村を分けて老若男女が移民するという形式になった。巧みな勧誘で、また国の意向をバックに断りづらい状況を、当時の史料から本書は明らかにしている。無敵関東軍神話もあり、多くの人は安全な土地と考えていたため、侵攻まで移民が続いた。
 そして後半はソ連侵攻以後の話。攻撃を受け難民となって避難する状況は目を覆う悲惨さだ。母子が戦争の最前線を逃げる。何とか逃れてハルピンなどの都市部の収容所で生活するものの、毎日人が死ぬ。そこからが本当の地獄だった……
 ソ連侵攻後に満州だけで24万人の犠牲が出た。とりわけ、国境付近にいた満蒙開拓団員は全滅、半数以上死亡の集落が多かった。原爆以上の悲劇だ。にも関わらず、原爆と比べあまりに話題にならない。異国であり、無名の人ばかりで、余りにも過酷な体験だったからではないか。8月8日も追悼の日にしてほしい。
 地方紙で地域が限られた中、よくここまで取材したなと思う。満蒙移民を煽った2人の学者の、反省なき戦後まで追っている。著者の静かな怒りが伝わる。2章に出てくる高橋是清の猛反対が印象的だった。自身も移民で辛酸をなめた経験、日露戦争の戦費調達に汗をかいた思いがあったからではないか、と著者はいう。重苦しい読書体験だが、戦後70年にふさわしい優れた内容だった。

 今月一番よかったのは、「人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み、食べ、歩く800キロの旅 (光文社新書)」。本の構成がきれいで、素人っぽさのある写真もいい。内容も物語感があって引き込まれる。
スポンサーサイト
コメント
非公開コメント

トラックバック

http://unanne.blog41.fc2.com/tb.php/175-c301fdb1

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。