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12月の新書オーバービュー

 もうすぐ3月だが、そろそろ新書でもピケティ本が出てくるんじゃないだろうか。しかし、訳者の山形浩生のジャッジが厳しいからやりずらそう。ピケティが古典になるかどうかはわからないが、この1年、話題の中心ではあるだろう。例年12月から2,3月は冬枯れシーズンだが、今年の12月は面白い本が多かった。

 日本にもファンが多いものの、真意の読めないプーチンに関連して、読みでのある新書が今月2冊。学者ながらプーチン周辺に太いパイプを持つ下斗米伸夫がロシアとプーチンの描く外交戦略を大胆に読んでみせた「プーチンはアジアをめざす―激変する国際政治 (NHK出版新書 448)」が1冊目。
 結論を知りたければ、巻末から読むべきだが、著者は「プーチン政権中にに北方領土問題を決着させなければ、日本を取り巻くパワーバランスは中国サイドに大きく傾く」と見ている。中国の人口・経済成長から、このまま行くとプーチン政権末期にはシベリアは中国経済圏に取り込まれる。著者は明言しないが、北方領土である程度譲歩して領土を確定させ、日中露の外交を正三角形の関係にすれば安定すると考えているようだ。
 本書では、プーチンのパーソナリティについても、「正教異端派出身であることが、保守的であることや東方への関心が高いことの一因なのではないか」、ウクライナ内戦について、ロシア人の正教、ウクライナ人の東方典礼カトリック教会という宗教の違いのほか、ネオナチ組織の影響も指摘している。プーチンの主催する内外研究者会合に出る数少ない邦人研究者として、親ロシアのスタンスではあるが、日本の国益を重視しながら大局を見据えたいい本だった。

 もう1冊は、てっしー&ラスプーチン対談2作目「賢者の戦略 (新潮新書)」。あんた前月に池上彰と対談したばっかじゃんと思いつつ。佐藤の意味深なヒントに、てっしーが大仰な表現の「正解」で応じる。という、お約束化した流れにげんなりするが、さすが国際政治専門の2人だけあって、池上彰より遥かに内容は深い。
 佐藤・てっしー本ではイスラム国問題でヨルダンの重要性を論じていた。図らずもイスラム国人質事件で、ヨルダンの重要性は誰もが知るところとなった。ヨルダンは事実上イスラエルに支えられており、ヨルダンが混乱すれば中東中の王制が危機になり、大混乱に陥る。イスラム国やハマスもそれを狙っている。佐藤の見取り図は、イスラエルの見取り図でもあるが、事件でヨルダンが狙われていることが証明された。
 安倍政権外交についての読みは違うように思う。「靖国参拝以降、安倍政権は排外主義に傾斜した。日本優位な国際環境が逆転した」という見立てを本書はしているが、違うと思う。米国は厳しいコメントを出したが、結局従前どおりの付き合いをしているし、中国は首脳会談に応じた。「大きな転換点」ではないだろう。安倍政権では「価値観外交」派が主流のように見える。もちろん政権内で排外主義者との路線対立は続くだろうが。
下斗米の本と佐藤の本、両書にはいくつか共通する点がある。一つは日本の対露制裁は、「欧米にしぶしぶ付き合ってますよ」というシグナルをロシアに送っていて、ロシアもそれを理解し、関係悪化を防いでいる。お互いに芝居をやりながら関係改善を図っている。
 もう一つはオバマ外交の失敗。下斗米は「ロシアを嫌う東欧ロビーに引きずられている」とい、佐藤は「イラクのシーア派体制を護るためにイランに近づき、あるいはアサド政権排除をしないため、イスラエルやサウジの不興を買っている」と。オバマも功を焦っているんだろうか。

 帚木蓬生の「ギャンブル依存国家・日本 パチンコからはじまる精神疾患 (光文社新書)」は、カジノ合法化に進む現在だから読む価値がある。ギャンブルに否定的な言説は社会に出にくい。しかし、根治は難しく、何年も根気強く麻薬でいうところのダルクみたいな施設で治すことになる。両親や妻がギャンブルの借金を立て替えたり、一家離散したり患者たちは悲惨だ。多くのギャンブル依存患者を治療した経験から、著者は「ギャンブルは非合法にすべきだ」と強く訴える。
 カジノがなくても、事実上の賭博場であるパチンコ店が全国津々浦々にあるのに、ギャンブル規制・治療体制は諸外国と比較して弱い。「タバコや酒と同じなんだから、ギャンブル運営者は『危険』表示をしろ」と。確かに。

 光文社新書でもう一つ医師が書いた「死体は今日も泣いている 日本の「死因」はウソだらけ (光文社新書)は、検死制度から日本の医療に危機感を示している。著者は千葉大法医学教室主任教授。日本の死因検証システムが世界水準からかけ離れていることには以前から指摘があり、立法もされてきた。しかし、著者の評価は厳しい。海外では、捜査機関から独立した死因究明官がいたり、国立の法医学研究所があったりするという。異常死体解剖率が11%の日本に比べると、40~80%の確率で解剖されている。「解剖しなかった」ために、パロマガス器具の不備、現役力士の相次ぐ死亡、連続毒殺事件などの発覚がかなり遅れた。この15年程度にも判明しているだけで40以上の殺人事件が見逃されてきた。
 死因究明の不備が、連続事件・事故を誘発する。安全安心のためにも異常死体はすべて解剖しなければならない」と訴える著者らは、東日本大震災でもボランティアで赴いて解剖した。震災のどさくさに紛れて殺人遺体を持ってくるかもしれない、検死することで、今後の防災に役立つ知見も得られるだろう。死因が溺死なら、凍死なら、あるいは圧死なら、それぞれ対策のとり方があるのでは。「きちんと検視すればなにか提言できたかもしれない」という回顧が印象的だった。しっかりしたエビデンスをバックにしつつ、心情的にも説得力のある主張を持った本だ。

 「ハシシタ」問題以来、盗用など次々と批判を受け、鳴りを潜めていた佐野眞一が復帰第1作とした「ノンフィクションは死なない (イースト新書) (イースト新書 32)」。弁解や「今のノンフィクションは……」というジジイの繰り言みたいな批判が続く。ハシシタについても色々弁解しているが、東の人にはわかりにくいセンシティブな人権問題にあまりに軽率だったことが全ての要因だと思う。金的蹴りしてでもケンカに勝ちに来る橋下市長が、この脇の甘さを見逃すわけがない。
 また筆者なのにデータマン任せにして「事情を把握していなかった」というのも論外だろう。とはいえ、取材側が反論するとすぐ「勉強不足」で切って捨てる改めて橋下という人間が、国政を担う器ではないことを読んで改めて感じた。
 ほかにも昔盟友で、佐野が袋叩きにされていた時、一緒に批判していた猪瀬直樹にやり返したり、「ガジェ通」の背後に「巨大組織がいる」と言ってみたり。無様だ。しかしこの子供っぽい無様さが、妙に佐野眞一っぽい。怨念というか人間の業みたいなものを抱えた人間の評伝を多く書いてきた佐野だから、己の思いの丈をぶちまけているのだろうか。「ホテルは朝食で選べ」などと、偉そうにノンフィクションの講釈を垂れてる場合ではない。自分で地面を這いまわって取材して再起して欲しい、と佐野ファンとしては思う。

 安倍首相というか自民党べったりの「御用政治評論家」ではあるが、首相に一番近い政治ジャーナリストといえる田崎史郎の「安倍官邸の正体 (講談社現代新書)」は、非常に面白い。安倍首相と、その黒子に徹して忠実に動く官邸スタッフのドキュメント。消費税再増税に向け、次官以下スタッフが安倍首相に絡む「有識者」に絨毯爆撃的に「ご説明」に上がるのを、安倍首相と官邸が押し切って解散に持ち込んだ、冒頭のエピソードからして読ませる。
 安倍首相が第1期の反省、そして民主党政権の失敗を元に、政権運営していることがよくわかる。メディア対応、人事の動かし方を、横並び・順送りから自分の意志で決定するように変えた。これでメディアからも官僚からも求心力を持つようになったといえる。ただ、内閣改造後、閣僚がバタバタやめているのが気になる。閣僚ドミノが前回の命取りになっただけになおさら。本書ではダメコンをしっかりやっているようなことを書いていたが、それがうまく機能しているのか。

 今月一番読みでがあったのは、「安倍官邸の正体」。著者が政局の指南役気取りになってるのは嫌だが、中身は読ませる。著者の見立てには同意できる点、できない点はあるが、最高権力がどのように動かされているかがよくわかる。
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