うなんね新書レビュー ホーム » スポンサー広告 » 一般書 » 報道されない中東の真実

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

報道されない中東の真実



 「報道されない」といういかにも電波なタイトルや、「中東大使OB」という経歴でアレな人かと思ってしまう。そういう元外交官いるし。私も前著を読まなければ絶対手に取らなかった。元シリア大使が、シリア内戦を整理した優れた本。アサド崩壊ムード一色だった2年前に出した前著「シリア アサド政権の40年史 (平凡社新書)」で、現地人脈で入手した情報などを分析して、「アサド政権は維持できる」「アサド政権弱体化は原理主義や紛争を招く」といった展望を導き、イスラム国が跋扈する現在の混乱をかなり言い当てていた。
 本書は中東全体の話ではなく、前著を受ける形でシリア内戦の経緯を書きながら、周辺国、宗教がからむ複雑な構図を解明している。本書には、アサド政権の要人によるブリーフィングもあり、政権を擁護する面はあるが、欧米や日本で報じられてきた「アサド政権の横暴」という見立ては誤りであり、正統性のある政権であることを実証している。

 そもそもアサド政権は、政治経済の自由化を進めてきたが、ジャスミン革命時に誤解から住民暴動が起こった。それをアルジャジーラが煽り、全国で内戦に突入した。反体制派武装勢力は、著者が前著で危惧した通りの盗賊集団やアルカイダ系テロ集団だった。強面イメージが災いし、アサド政権はメディア戦略で後手に回り、完全にヒールに回ってしまった。大づかみには、反政府勢力を湾岸諸国とトルコが、アサド政権をイランやロシアが支援しているようだ。

 化学兵器使用を疑われて欧米の軍事介入が迫り、追い込まれたシリアだったが、助け舟を出したのは意外にも「敵側」米国だった。国務長官が仮定法的表現で「もしも化学兵器を全量廃棄すれば攻撃は避けられる」と発言したのに、ロシアが「では廃棄する交渉をしよう」と応じたためだ。シリアは米ロの合意を全面的に受け入れ、シリアから毒ガスを排除し、軍事介入の可能性は消えた。実はシリアも内戦に入って化学兵器管理・廃棄は負担だったので、渡りに船だったという。内戦は続いているが、アサド政権崩壊はほぼないだろう。

 ひでえなあと思うのがカタール。カタールは天然ガスを日本に高値で売りつけることで、大半の国富を生み、この10年で富豪国家になった。「金は国力」と言わんばかりにアルジャジーラを作り、W杯を招致した。首長は原理主義的なワッハーブ派であり、イスラム主義の武装勢力に金や武器を与え続けた。内戦初期にあった外交官の政権離脱は、カタールが、離脱の報酬として3億円相当を与えたからだという。サウジも大概だが、有り余るカネで内政干渉するカタールという国はどうしようもない。

 本書が素晴らしいのは、情報源が報道だけではなく、著者自身が今春現地に乗り込んで、イスラム大法官や情報相、外務副大臣、赤新月社総裁などアサド政権の要人と会談し、その情報も取り込んでいる点だ。イスラム国は情報に乏しい。原理主義集団のイスラム国やヌスラ戦線と戦っているアサド政権は、貴重な情報を持っているはずだが、ただでさえ情報統制が厳しい上、日本を含む欧米諸国はほとんど没交渉で実態がわからず、2次、3次情報に頼っている。日本のメディアも同じだ。著者の情報は情報源に近い分、欧米メディアよりも精度は高い。
 2014年春の大統領選にしても、日本では「内戦下で国民の信任を誇示するための茶番」という報じられ方だったが、憲法の規定が定めた義務で、アサドが辞める辞めないにかかわらず行うものだだと著者は言う。

 本書を読むと、反体制派と和解しても、アサド政権が軸でなければシリアは統治できないと感じる。著者は淡々と事実と自身の分析・評価をコメントするのみだが、できれば、今後の展望や和解の糸口、日本の役割を語ってほしかった。日本政府もメディアも、なぜ著者に目を向けないのか。自著とIWJでしか知ることができないのは実にもったいない。いろいろな所で論じられてほしい。前著の構図を世界が理解していれば、イスラム国の無法も防げたかもしれない。日本政府もアサド政権と和解し、同国内で医療や教育支援を行ってほしい。
スポンサーサイト
コメント
非公開コメント

トラックバック

http://unanne.blog41.fc2.com/tb.php/156-9fccb993

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。