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7月の新書オーバービュー

毎年、新書は夏枯れというのか、夏は全体的に不作感が漂う。今年もやはり、そんな次から次へと本に手が伸びる感じではない。ただ、少ないながらあったいい本は、かなり読ませるし、ためになる本だった。

日本人の知らない武士道 (文春新書 926)」は、NZ剣道ナショナルチーム監督で関大教授が書いた武士道本。著者は剣道だけでなく、なぎなたでも世界トップクラスの腕を持つ。武士道を理解するには、武道を極めなければならない。私は知らなかったが、剣道の試合ではガッツポーズは反則だ。「残心がない」という。一本を打ち込んでもまた相手がかかって来てもいいような身構え、心構えを示さなければいけない。もう一つ、実戦であれば相手を殺していることを意味する。慈悲の心を「残心」で表す。喜んではいけないのだと。常に死を覚悟するからこそ、生きることに敬意を持つ。技術以上に平常心を磨かないと試合で勝てない。心身の鍛錬が武士道だ。武道はいかにも「日本独特」感があるが、世界中どこにでも、ご当地の国旗と日の丸を正面に掲げた道場がある。日本では珍しくなった礼儀、武士道精神を体現した武道家も多いという。意外にも最も世界に受け入れられた日本文化である。はっと気付かされたのは、老人でも若者と稽古できるという他のスポーツにはない特性。段位という制度があり、生涯スポーツとして何歳でも向上できる。イランでは、アメリカ大使館員人質事件の舞台が、今は武道場になり、ホメイニ師と並んで植芝盛平や嘉納治五郎の写真が掲額されているという。心身一体、宗教的覚醒を得られるという理由で武道を学ぶ外国人も多い。精神修養がなければ武道はただの殺人術になってしまう。勝利至上主義の日本武道を著者が危惧するのも、ここにある。「死地を求める」という葉隠的なマッチョ武士道を武士道だと思っていたので、江戸以前から続く武士道の本質を初めて知った。武士道って、気合とか、もっとエモーショナルな概念のような気がしたのだが、本書は著者のエピソードや戦国・江戸の文書を引用しながら、ロジカルに武士道を説明している。

女性アスリートは何を乗り越えてきたのか (中公新書ラクレ)」によると、体操や陸上で、女性のトップアスリートは生理が来ないのは普通らしい。選手をしている間は妊娠・出産は諦めるという。日本はオリンピックで女性の方が活躍していて、メダルも女性の方が多い。にもかかわらず、トップアスリートを支える環境は、女性の方が貧弱だ。中学進学時に女子サッカー部がないため、他競技に変わる。大学までプレーしても、女子サッカー部は廃部が相次ぎ、プレーヤーに専念は出来ない。バレー、バスケなど他競技と取り合いになる。パルムドールや銀メダルを取っても、なかなか厳しい。女子アスリートの実情を伝えながら、支援強化を訴えている。

北朝鮮秘録 軍・経済・世襲権力の内幕 (文春新書 932)」は、金正日発病後の北の動静を、ルポ風にまとめた本。北のNo.2張成沢が「ミスターX」を粛清した状況、胡散臭いフィクサーに誘われた松原拉致担当相が、外務省の静止を振り切って訪朝しようとした話は初めて知った。北京で外務省と北朝鮮の交渉の間に、拉致対策本部が北代表団と接触したという。複数機関が争って北と接触を持とうというのは良くない。手の内を明かすことにならないか、と著者は懸念している。日米間朝の政府担当者に肉薄していることを思わせる濃密なバックグラウンド話で面白い。

政令指定都市の成り立ちや制度設計を解説する「政令指定都市 - 100万都市から都構想へ (中公新書)」によると、もともと政令市は大阪・京都・横浜・神戸・名古屋の5都市を想定して戦後制定された。しかし、神戸は戦災で壊滅し100万人を大きく割り込んでいた。そのため、法定要件を「50万」とした。現在、政令市が20市まで拡大した背景には、この「神戸救済策」が遠因だという。自治省で「実質100万」というインフォーマルな要件を設定してはいたが、平成の大合併で、面倒な法改正なく70万までハードルを下げられた。20市まで増えたことで、過疎地まで抱え込む政令市も少なくない。後半で大阪都構想について論じている。大阪は関西圏の中心であり、夜間人口に比べ、昼間人口が100万人多い。住民税を払うのは大阪市民だが、労働者・学生など大阪市に昼間過ごす人は道路、ゴミ清掃、社会教育施設など大阪市の提供するサービスを、住民税を払わずに受けられる。大阪市の予算規模は人口が100万人以上多い横浜市よりも大きい。このメリットを享受しているのが、リッチな豊中や池田などの北摂地区だ。この辺りを取り込んで、大阪都を作ろうという考えらしい。東京から見ていると「また橋下が大きなこと言って……」と冷めた目で見ているが、大阪の住民は妥当な方策だと見ているのかもしれない。「大阪―大都市は国家を超えるか (中公新書)」の著者も大阪市大の研究者で、本書著者も市大から阪大に転じた。市大は地方自治研究でかなり進んでいるんだなあと感じた。府市合併で大学も統合するようで、今後はどうなるかわからないが。

今月、群を抜いて良かったのが、「北方領土・竹島・尖閣、これが解決策 (朝日新書)」。中ロ関係研究から国境研究者に転じた著者の前著は「択捉を場合によって放棄する」という、領土問題にレジーム・チェンジをもたらした名著だったが、本書はそれに勝るインパクト。歴史問題を領土紛争から切り離す。北方領土は2島に両者が妥協できる上積みを求める。一方で、尖閣・竹島は厳しく対応する。実際、第二次大戦で、無法にソ連に押し込まれ善戦したフィンランドも、国土の10分の1を差し出してソ連と妥結した。フィンランドは何ら崩壊していない。むしろ対ソ重防衛という軛が取れ、経済国家として戦後成長した。ロシア国境の安定は北海道の成長に資すると、著者も考えている。平和条約交渉が本格化した今、いいタイミングで出した本だと思う。
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